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東京地方裁判所 昭和53年(レ)227号 判決

控訴人(第一審被告) 昭和建産株式会社

右代表者代表取締役 藤原昭

右訴訟代理人弁護士 片村光雄

同 小川勝芳

被控訴人(第一審原告) 日本自動ドア株式会社

右代表者代表取締役 吉原利美

右訴訟代理人弁護士 池田清治

同 大星賞

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

(控訴人)

原判決を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人の負担とする。

(被控訴人)

主文と同旨。

第二当事者の主張事実

(請求原因)

一  控訴人は、自動ドア及び鋼製建具の製造販売並びに据付工事等を目的とし、資本金九六〇〇万円、発行済株式総数一九万二〇〇〇株(一株の額面金額五〇〇円)の株式会社である。

二  訴外幡山博(以下「訴外幡山」という。)は、昭和五〇年三月二二日を払込期日とする控訴人の新株発行に際し、三〇〇株(以下「本件株式」という。)を引き受け、同日その発行価額の全額を払い込んだ。

《以下事実省略》

理由

一  控訴人が自動ドア及び鋼製建具の製造販売並びに据付工事を目的とし、資本金九六〇〇万円、発行済株式の総数一九万二〇〇〇株(一株の額面金額五〇〇円)の株式会社であること及び訴外幡山が昭和五〇年三月二二日を払込期日としてされた控訴人の新株発行に際し、本件株式を引き受けて同日その発行価額の全額を払い込んだことは当事者間に争いがない。

二  《証拠省略》によると、訴外幡山は、昭和五二年一二月一〇日被控訴人に対し、本件株式を譲渡したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

三1  控訴人が、本件株式につき、その効力発生日である昭和五〇年三月二三日から訴外幡山が被控訴人に本件株式を譲渡した昭和五二年一二月一〇日までの間、その株券を発行しなかったことは当事者間に争いがない。

2  《証拠省略》によれば、控訴人の株主総数は約九〇名であることが認められ、右認定に反する証拠はない。右事実と、前記当事者間に争いのない控訴人の内容、規模を基に、本件株式につきその効力発生後前記認定の本件株式譲渡の日までの間に、既に二年一〇月近くの期間が経過していることを考えると、右譲渡当時、控訴人は、本件株式につき、株券の発行を不当に遅滞し、信義則に照らしても、株券未発行を理由としては、本件株式の譲渡の効力を否定し得なくなっていたものと認めるのが相当である。

3  控訴人は、本件株式については、その効力が発生した昭和五〇年三月二三日当時既に株券が作成され、請求があれば、いつでも訴外幡山にその交付ができる状況にあったから、仮に株券未発行のまま相当期間が経過しても、訴外幡山は、その交付を求めることなく、本件株式を他に譲渡することはできないと抗争するが、右主張事実を認めるに足る証拠はない。その上、仮に株券が既に作成されているため、株式の譲渡等をするに際し、予めその発行を請求することを要するとするためには、少なくとも株主が右株券作成の事実を知っていることが前提となるべきものと解されるところ、訴外幡山がその事実を知っていたとの点については、何らの主張立証もない。

四1  控訴人の定款には、株式譲渡につき取締役会の承認を要する旨の定めがあること、訴外幡山が昭和五二年一二月一六日到達の書面をもって、控訴人に対し、譲渡の相手方並びに譲渡しようとする株式の種類及び数を記載の上、右譲渡を承認しないときは他に譲渡の相手方を指定するように請求したこと及び控訴人が訴外幡山に対して同月二三日ころ到達の書面でもって、訴外幡山の本件株式の譲渡の相手方について訴外藤原と指定した旨を通知したことは当事者間に争いがない。

2  訴外藤原が右通知の日から一〇日以内に訴外幡山に対し、本件株式の買取りを請求したことについては、控訴人は何らの主張立証もしない。のみならず、《証拠省略》によれば、訴外藤原は、右期間内に訴外幡山に対し、本件株式買取りの請求をしなかったことが認められ、右認定に反する証拠はない。

3  控訴人は、本件株式につき株券が既に作成されていることを前提に、右株券の交付を請求することなく、本件株式の譲渡承認及び株主名簿の名義書換えを求めることは許されないと主張するが、本件株式につき株券が作成されている事実を認めるに足る証拠がないことは先に述べたとおりであり、仮にもし、控訴人の右主張が、株券が既に作成されていることを当然の前提とするものではなく、株式の所持がない以上、株券の発行が不当に遅滞している場合にも、株式の譲渡を受けた者は、株券を所持しないまま、株式の譲渡承認や株主名簿の名義書換えを請求することができないとする趣旨であれば、それは独自の見解として、とうてい採用できるものではないから、いずれにしても右主張は理由がない。

五  以上によれば、控訴人は、被控訴人に対し、訴外幡山が被控訴人に対してなした本件株式の譲渡を承認したものというべきであるから、被控訴人の本件株式につき株主名簿中の訴外幡山名義を被控訴人名義に書換えるとともに株券の発行を求める本訴請求を認容した原判決は正当であり、本件控訴は理由がないから民事訴訟法三八四条によりこれを棄却し、訴訟費用の負担につき同法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 野崎幸雄 裁判官 井上弘幸 裁判官渡辺等は転補のため署名捺印することができない。裁判長裁判官 野崎幸雄)

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